推奨微生物株

接種試験

農業生物資源ジーンバンクでは、DNA塩基配列情報による再分類と培養下での性状点検等に基づき、主要コレクションについて推奨微生物株の選定を進めています。

  • Fusarium属推奨菌株
    近年、Fusarium属菌等ではDNA塩基配列の比較解析に基づく分子系統学的研究が進み、本属菌の多くの種が複数種を内在する種複合体であることが明らかにされてきた。また、種の分割・再定義も次々に進められる状況にある。農業生物資源ジーンバンクでは、日本産のFusarium属菌種についてその典型的菌株のセットを最新の分類学的基礎に基づいて構築することを目的に、所蔵菌株の培養下での性状検査と合わせて、Histone H3遺伝子領域、ミトコンドリア小サブユニット・リボソームDNA (mtSSU rDNA)、リボソームDNA ITS領域(rDNA-ITS;18S rDNA部分塩基配列、rDNA-ITS1領域、5.8S rDNA、rDNA-ITS2領域、および28S rDNA部分塩基配列を含む)等についてDNA塩基配列の決定と解析を進めてきた。これらの情報を点検・総合し、各菌種を代表する良好な菌株をFusarium属菌の第一次「配布のための推奨菌株」として選定した。
  • Colletotrichum属推奨菌株
    今世紀に入りColletotrichum属菌の分類に分子系統解析が取り入れられ、特に近年DNA塩基配列に基づく再分類の論文が立て続けに発表されている。分子系統解析の結果、わずかな形態に基づいて定義されてきた単一種が実は複数種の集合体(種複合体 = species complex)であることが明らかになり、その構成種が次々に分割されつつある。そこで、ジーンバンク所蔵菌株を各菌群の再分類で用いられているDNAバーコード領域・遺伝子塩基配列(リボソームDNA ITS領域、β-tubulin-2、Histone H3など)に基づき再同定し、培養性状・微小形態と合わせて各菌種に典型的な優良菌株を選定した。現在も盛んにColletotrichum属菌の再分類が進められているため、その最新情報を取り入れながら順次選定種を増やしていく予定である。
  • 植物病原性Rhizobium属 (=旧Agrobacterium属) 推奨菌株
    根頭がんしゅ病菌や毛根病菌が含まれているAgrobacterium属では、病原性に基づいて人為的に属と種が定義されてきた。また、その種内には、変種レベルの分類階級である複数のbiovar(生理型)が設けられてきた。しかし、近年になって導入された多相分類学的研究の成果に基づき、Agrobacterium属とRhizobium属とを1つに統合して「Rhizobium属」とすることと、各biovarを種レベルの分類群へと格上げすることが提案された。このような植物病原性Rhizobium属細菌(=旧Agrobacterium属細菌)をめぐる分類体系の変更に対応するために、16S rDNA、atpDglnArecAに基づいた分子系統解析、接種試験、PCR検定などを実施し、その結果に基づいてジーンバンク所蔵菌株の再同定を行った。そして、菌種/病原性タイプ/genomovarごとに可能な限り典型的と思われる菌株を選び出し、「推奨菌株(分類・同定試験用の対照菌株)」としてまとめた。さらに、分離源植物ごとに、代表的な病原性菌株(TiあるいはRiプラスミド保有菌)を「推奨菌株(接種試験用の対照菌株)」として選定した。
  • キウイフルーツかいよう病菌 (Pseudomonas syringae pv. actinidiae) 推奨菌株
    キウイフルーツかいよう病はわが国をはじめとする多くのキウイフルーツ生産国で大きな被害を与えており、深刻な問題となっている。その病原細菌 (Pseudomonas syringae pv. actinidiae) は現在、表現型・遺伝型の違いに基づいて5つの生理型 (biovar 1, 2, 3, 5, 6) に類別されている。また、biovar間で病原性関連遺伝子のレパートリーや病原力が異なることも明らかになりつつある。なお、わが国では、このうちの4つ (biovar 1, 3, 5, 6) が確認されており、Actinidia chinensisA. deliciosaA. arguta等にかいよう病を引き起こしている。
    ジーンバンクには、わが国に分布している4つのbiovarの全てが揃っている。また、これら多数の所蔵菌株を対象として、各種表現型の検査、PCR検定、MLSA、比較ゲノム解析等を行ったところ、これらが変異に富んでおり、それに基づいて一部のbiovarはさらに複数のグループに細分できることも分かってきた。そこで、各biovar・グループから代表的なものを推奨菌株として選定し、関連情報とともに公開することとした。
  • Pseudomonas marginalis sensu lato」に由来する腐敗病菌の推奨菌株
    植物病害の防除現場では、ごく最近まで、以下のような性質を示す菌株がPseudomonas marginalisと同定されてきた: 蛍光色素を産生し、オキシダーゼ、ジャガイモ塊茎腐敗、アルギニンジヒドロラーゼが陽性となるような腐敗病菌(= ここでは「P. marginalis sensu lato」と表記する)。一方、近年になり、細菌の分類に分子系統解析やゲノム解析の成果が導入されるのに伴い、P. marginalis sensu latoは変異に富んでいることが明らかとなり、多くの隠蔽種を含んだ種複合体である可能性が指摘されるようになってきた。
    そこでジーンバンクでは、所蔵しているP. marginalis sensu latoを対象として分類検証を行い、「P. marginalis sensu strictoに該当する菌株(= P. marginalisの基準株と同じ種の範疇に入る菌株)」と、その範疇から外れる可能性のある菌株とに仕分ける作業を2017年に実施した。その上で、後者の分類上の所属について多相分類学的手法を用いて検討したところ、一部の菌株については、いずれの既知菌種とも異なることが明らかとなり、「新種 (P. aegrilactucae, P. allii, P. brassicae, P. cyclaminis, P. kitaguniensis, P. lactucae, P. morbosilactucae, P. petroselini)」として記載することができた。一方で、「P. marginalis sensu stricto以外の既知菌種(P. grimontii, P. salomoniiなど)」に該当することが判明した菌株も存在する。ここでは、上記の各菌種から代表的なものを推奨菌株として選定し、関連情報とともに公開する。