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バクテリオファージ(以下、ファージ)の取り扱いマニュアルです。一般的な操作を、映像と共に示しています。なお、培養条件などはそれぞれの株(宿主細菌およびファージ)ごとに設定する必要があります。詳細は永井・山﨑, 微生物遺伝資源利用マニュアル No. 42 (2019)をご覧ください。

二重平板法によるファージの増殖

  1. 下層寒天培地と宿主(指示菌とも言う)を準備しておく。
  2. 滅菌した上層寒天培地を溶かして滅菌小試験管に分注し、保温器であらかじめ温めておく。または、小試験管に上層寒天培地を分注したのち、それをオートクレーブ滅菌し保温しておく。
  3. ファージ原液を1/10または1/100段階希釈する。
  4. ファージ希釈液から適量をとり、それを宿主の培養液と小試験管内で混ぜる。例えば、10 μlのファージ希釈液と30 μlの培養液を小試験管の底にとる。なお、加えるファージ希釈液の量を多くしすぎない。100 μl以下に抑える。
  5. ファージを宿主細胞に吸着させるために、適温中で適当時間保温する。例えば、宿主の生育適温で15分間置く。あまりに長時間置くと、ファージが細胞内で増殖し、細胞外に放出され始め、ファージ濃度が高く算出される。
  6. 小試験管に4mlの上層寒天培地を加え、軽く撹拌したのち、平板培地に注ぎ、軽くプレートを傾けつつ、回して軟寒天がプレート前面に行き渡るようにする。なお、撹拌する際にあまり強くすると、泡が立つのでそれは避ける。
  7. 上層寒天培地が固化した(およそ10分程度。必要であれば、更に表面を風乾する)後、上向きにしてインキュベータに置く。
  8. 培養後プラークの計数やファージの回収に利用する。

ファージ懸濁液の調製

  1. 「二重平板法によるファージの増殖」に従い、ファージの濃度を調整し全面がほぼ溶菌した二重平板培地を準備する。
  2. 4mlの SMを滅菌済み試験管に入れ,ドラフト内でそれにクロロホルムを2、3滴滴下する。それを上層寒天培地が壊れないようにして丁寧に二重平板に注ぐ。クロロホルムに感受性か、または耐性が不明のファージには、クロロホルムは添加していない。慣れてくると、SMを駒込ピペットで二重平板に注いでもよいが、コンタミネーションには十分注意する。
  3. 室温で8時間、または冷蔵庫で一晩程度置く(クロロホルムを添加しない場合は冷蔵庫に置くのがよい)。
  4. 二重平板培地からSMをパスツールピペットで回収する。
  5. 回収したファージ懸濁液を0.2 μmのフィルター(水溶液用)に通し、バイアルに入れる。回収した懸濁液に宿主細胞が多数存在し、ろ過しにくい場合は、遠心分離(8,000 rpm, 5分程度)をしてある程度菌体を取り除いたのちに、フィルターに通す。
  6. 懸濁液は冷蔵庫で保管する。ファージによっては不安定であまり長期間冷蔵庫に置くことができないものもあるので、そういう場合は早めに凍結乾燥保存または凍結保存をしたほうがよい。

プラークからのファージの回収

  1. まばらにプラークが形成された二重平板培地に、パスツールピペットをプラークの中心に垂直に立て、プラークを寒天ごとくりぬくような感じで回収する。
  2. 回収したプラークは、SMに懸濁し、適当に希釈して二重平板法でプラークを形成させる。この単離操作を3回繰り返し、純化を行う。

スポットテスト

ファージ懸濁液中のファージの生残や宿主域を調べるのにはスポットテストが簡単でよい。

  1. 指示菌のみを上層寒天培地に混ぜ、下層平板培地に重層し、固化させる。
  2. その二重平板培地の表面を乾燥させて、ファージ懸濁液を5μl程度滴下する。その際、チップの先に懸濁液の「風船」を作らないようにする(割れた際にファージが回りに飛び散るため)。
  3. 培養後プラークの形成を観察する。