在来品種データベース

「不明 (ユウガオ(カンピョウ))」品種情報
生産地長崎県対馬市厳原町
作物名ユウガオ(カンピョウ)
品種名不明
学名Lagenaria siceraria (Molina) Standl. var. hispida (Thunb.) H.Hara (ウリ科)
現地での呼称はけ
写真対馬在来ヒョウタン@長崎県対馬市2019-03-05 ヒョウタンを二つ割りにして作られるハケ(ひしゃく)@長崎県対馬市2019-03-05 ヒョウタンの形に変異がある.中にあるのはメナガと呼ばれる在来アズキ@長崎県対馬市2019-03-05 ヒョウタンを二つ割りにした様子 種子の形
栽培方法3月播種。寒いときはハウスなどで温床を作って芽だしする。7,8月ころに開花。9月以降、果皮が緑色から白色になり、厚く硬化したころに収穫。通常の畑には植えず、他の畑作物のじゃまにならない土手や畑の周辺で栽培する。
品種特性セイヨウナシを大きくしたような形。種子の形からカンピョウ(ユウガオ)(Lagenaria siceraria var. hispida)であると思われる。ただし、夕方ではなく、日中でも開花する性質がある。
由来・歴史

1735年に編纂された対州(対馬)の産物帳(長崎資料1~6)に、「はけ」の記載が多数みられることから、少なくとも290年の栽培の歴史があると考えられる。

具体的には、長崎資料1には、瓜類の項に「はけ」、ゆうがほの項に「ゆうがほ はけとも言、長ゆうがほ 長はけとも言、ひしゃくばけ」の記載がある。長崎資料2の第二十壱の瓜類には、「甘瓢(アマハケ) 苦瓢 柄瓢(はけぼう共申す)」の記載がある。

長崎資料3の瓜類の項には、「あまばけ にがばけ 百なりばけ」の記載がある。

長崎資料4の瓜類の項には、「青はけ 白はけ」の記載がある。

長崎資料5の瓜類の項に「はけ」の記載がある。

長崎資料6の瓜類 朝鮮ばけの項には、「朝鮮より渡りたる種のよしにて、朝鮮ばけと申ならわし候 くき葉花ともに常のはけに同し はけの色青し」の記載がある。

長崎資料2と3には、同種(/{Lagenaria siceraria})のカンピョウ(甘瓢:あまはけ)とヒョウタン(苦瓢:にがばけ)が併記されていることから、当時は両変種とも(それぞれ、var. /{hispida}とvar. /{siceraria})利用していたことがうかがえるが、長崎資料1に「ひしゃくばけ」も含めてユウガオの項で紹介されているので、ひしゃくに利用するのはカンピョウ(ユウガオ)の利用が主であった可能性があること、また果実色が青色と白色があり、「青はけ」を「朝鮮ばけ」とも呼んだ可能性がある。現在、利用されているはけ(けーずき)は、果皮が青い(乾燥すると白っぽい茶色になる)ので、「青はけ」である可能性がある。

また長崎資料2~6の資料の地理的情報から、18世紀当時は対馬の上県郡の一部と下県郡の全域(対馬のほぼ全域)で栽培・利用されていたことがうかがえる。

伝統的利用法

完熟・乾燥した果実を目の細かいノコギリで縦に二つ割にし、種を採りだして洗って干したものを、なべに浮かせて使うひしゃく(現地でかいづきと呼称)にする。

せんだんご(発酵させたさつまいもを乾燥貯蔵した「せん」で作るだんご)を作るときなど、お湯を汲む鍋に浮かせておいて、ひしゃくとして使う。手に持つと軽く、なべに浮く、なべを傷付けないので便利であるとともに、マイクロプラスチックも出さず、使い終われば土に返すことができる自然素材として優れている。果実を割らずに、海で海士さんが浮き代わりに使うこともあるという。

昔は、お盆にハケの実の汁を仏様にお供えする習慣があった(その汁を人は食べなかった)。

栽培・保存の現状昨年まで厳原町では栽培農家が1軒いたが、高齢のため栽培をやめてしまった。対馬に他の栽培・利用者がいるかどうかは不明である。存続が極めて危うい状態である。
消費・流通の現状自家用のみ
継承の現状後継者は不在である。
参考資料
  • 以下、長崎資料1~6は「宗家文庫」史料で長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵の写本である。
  • 長崎資料1)著者不明(1735~37ころ)「対州并田代産物記録」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p29、77.
  • ※ここで表題の「田代」とは、対馬国領主宗家の領地の飛び地で肥前国の基肄郡と養父郡を合わせた地域を田代といい、現在の佐賀県鳥栖市田代にあたる。田代の産物は当該文書の最後に添えられており、「はけ」関連の記述は対馬の産物である。
  • 長崎資料2)佐護四郎右衛門(1735)「産物覚帳 佐護郷」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p272.
  • 長崎資料3)青木喜左衛門(1735)「産物覚 仁井郷」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p526.
  • 長崎資料4)平田十左衛門(1735)「産物覚 三根郷」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p584.
  • 長崎資料5)主藤吉之允(1735)「豆酘郷産物覚帳」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p614.
  • 長崎資料6)著者不明(1735)「与良佐須両郷 産物吟味帳 再吟味帳」.盛永俊太郎・安田健(1991)『享保・元文諸国産物帳集成第ⅩⅠ巻 対馬・肥前』、科学書院、p787~788.
調査日2019/3/5
備考この作物(植物名)は地元で「ハケ」と呼ばれるが、「ハケ」で作ったひしゃくを「かいづき」と呼んでいる。