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リョクトウ [Vigna radiata (L.) Wilczek ]

解説

日本における状況と農業生物資源ジーンバンクからの情報
星川(1981)によれば,リョクトウは17世紀以前には中国から日本に導入されていた。近年,福井県の鳥浜貝塚からヒョウタンといっしょに見つかった数粒の炭化種子がリョクトウと同定されて話題になった(前田 1987)。もしこの同定が正しければ,リョクトウは縄文前期,紀元前4,000年頃には日本で裁培されていたことになる。
リョクトウは,ヤエナリ,フンドウ,ブンドウ,アオマメ,アオマミなどとも呼ばれる。少し前までは,南西日本で広く裁培されていた。昭和の中期 (1949-1960)には 200-220 ha 程度の栽培面積があり, 約 210 tのリョクトウが生産されていた(星川 1981)。しかし,今では日本におけるリョクトウの栽培はほとんど消滅してしまった。我々は,南西諸島の探索でわずかに残っていた数系統のリョクトウ在来種を収集することができた (勝田・竹谷 1992, 友岡ら 1994)。それらの地域においてリョクトウはモヤシを作ったり,ご飯に混ぜたりして利用されていた。種子島では,細長く作ったモヤシはお盆のお供え物として欠かせないものだったという(友岡ら 1994)。1994年には日本は 53,039 t のリョクトウを輸入しており,主な輸入元は中国(31,073 t)およびタイ(12,510 t)である(雑豆輸入基金協会 1995)。
起源
Vavilov (1926)は,リョクトウの起源地はインドであると考えた。彼のリョクトウ・インド起源説は,インドにおいて①リョクトウの形態的多様性が高いこと(Singh et al. 1974),②野生種や雑草型が存在すること(Chandel 1984, Paroda and Thomas 1988),および③古い遺跡からリョクトウ種子が発見されること(Jain and Mehra 1980)から 支持されてきた。
一方 Tomooka et al.(1992) はアジア全域から収集されたリョクトウの在来種を用いて種子タンパクの分析を行い,種子タンパクからみたリョクトウの多様性中心と伝播経路を推定した。彼らの研究によれば,種子タンパクの多様性はインドよりもむしろアフガニスタン,イラン,イラクなど西アジアにおいて高かった。リョクトウに見つかった8つのタンパクタイプの分布から,リョクトウは起源地と考えられるインド付近から主として東方へ2つの伝播経路を通って広がったと考えられた。ひとつはインドから東南アジアへの伝播経路でタンパクタイプ1を中心とした少数のタンパクタイプの系統が東南アジアに広がった。もうひとつの伝播経路はシルクロードとしてよく知られている経路である。タンパクタイプ7や8の系統はこの経路を通ってインドや西アジアから中国さらには台湾へ伝わったと考えられる。
分類
リョクトウはササゲ属(Vigna)アズキ亜属(Ceratotropis)に属する一年生草本である。以前はインゲンマメ属(Phaseolus)に入れられていたことがあった。Vigna 属は,近縁のPhaseolus 属とともに, Phaseolus-Vigna complex と呼ばれる分類学的に複雑な分類群を形成している。Verdcourt (1970) は, Phaseolus 属をアメリカ起源で花柱がコイル状に3回程度回転し荒い網目模様のない花粉粒をもつ種に限ることを提案し,Phaseolus 属の概念を明確にした。これに伴って Vigna 属の概念は広がり,リョクトウを含むいくつかの種が Phaseolus 属から Vigna 属へ移された。Marechal ら (1978) は,Verdcourt の提案を受け入れ Phaseolus-Vigna complex の新分類体系を発表した。彼らの新分類体系が,現在最も広く受け入れられている。
彼らの分類によれば,V.radiata には3つの変種が記載されている。V.radiata var.radiata は栽培種リョクトウである。V.radiata var.sublobataはリョクトウの祖先野生種と考えられる種である。V.radiata var.sublobataの分布は広く,中央・東アフリカからマダガスカル,アジアを経てニューギニア,オーストラリア北部および東部にまでおよぶ (Tateishi 1996)。V.radiata var.setulosaはインド,インドネシア,中国南部に分布する野生種である。2n=22。
特徴
リョクトウは直立または半ほふく性の一年生草本で,草丈は 0.5-1.3m になる (Purseglove 1974)。花は淡黄色。種子色は多様で黄,黄緑,輝緑,鈍緑,褐,黒および緑地黒斑など。熟莢色は黒,褐または淡褐。百粒重は 3-7g。
Tomooka et al.(1991,1992) および Tomooka (1991) は,アジアから収集したリョクトウ在来種の生育型,種子特性,タンパクタイプに関してその地理的分布を明らかにした。西アジアおよび南アジアのリョクトウは,小粒で黒,褐,緑地黒斑,輝緑,鈍緑など多様な種子色をしめし,生育型,タンパクタイプともに多様性が高い。東南アジアのリョクトウは,種子の大きさは小粒から大粒まで変異が大きいが種子色は輝緑が優占する。生育型は草丈が高く多分枝で晩生,タンパクタイプはタイプ1がほとんどで多様性は低い。東アジアのリョクトウは中粒で鈍緑色種皮をもち,草丈が低く早生の系統が多いことで特徴づけられる。タンパクタイプ構成は,西アジアのリョクトウに類似し,タンパクタイプの多様性は比較的高い。
利用
南アジアではリョクトウは主としてダールとして利用されている。東南アジア・東アジアにおけるリョクトウの利用形態は多様で,種々のお菓子に加工されたり,餡,ぜんざい,もやしとして食べられるほか,中華料理で使われる「はるさめ」の澱粉原料にもなっている。
参考文献
星川清親 1981. リョクトウ 「新編食用作物」pp.470-475. 養賢堂.
勝田真澄・竹谷勝.1992. 沖縄県における雑豆および雑穀類在来品種の探索収集.植物遺伝資源探索導入調査報告書.Vol.8: 1-8.
前田和美. 1987. マメと人間. 古今書院.
Marechal,R., J.M.Mascherpa and F.Stainer. 1978. Etude taxonomique d'un groupe complexe d'speces des genres Phaseolus et Vigna (Papilionaceae) sur la base de donnees morphologiques et polliniques, traitees par l'analyse informatique. Boissiera 28.
Purseglove, J.W. 1974. Phaseolus aureus In "Tropical Crops : Dicotyledons." London : Longman. pp.290-294.
Tateishi,Y. 1996. Systematics of the species of Vigna subgenus Ceratotropis. In "Mungbean Germplasm : Collection, Evaluation and Utilization for Breeding Program" JIRCAS Working Report No.2. pp.9-24. Japan International Research Center for Agricultural Science (JIRCAS), Japan.
Tomooka,N. 1991. Geographical Distribution of Seed Characters in Mungbean. In "Genetic Diversity and Landrace Differentiation of Mungbean, Vigna radiata (l.) Wilczek, and Evaluation of its Wild Relatives (The Subgenus Ceratotropis) as Breeding Materials" Techinical Bulletin of Tropical Agriculture Research Center. No.28. pp.10-17. MAFF, Japan.
Tomooka,N., C.Lairungreang, P.Nakeeraks and C.Thavarasook. 1991. Geographical Distribution of Growth Types in Mungbean, Vigna radiata (l.) Wilczek. Japanese Journal of Tropical Agriculture 35(3): 213-218.
Tomooka,N., C.Lairungreang, P.Nakeeraks, Y.Egawa and C.Thavarasook. 1992. Center of genetic diversity and dissemination pathways in mung bean deduced from seed protein electrophoresis. Theoretical and Applied Genetics. 83:289-293.
友岡憲彦・中山博貴・山田清道・杉本明.1994. 種子島・屋久島における在来作物の探索収集.植物遺伝資源探索導入調査報告書.Vol.10: 15-24.
Verdcourt,B. 1970. Studies in the Leguminosae - Papilionoideae for the "Flora of Tropical East Africa" : IV. Kew Bulletin 24.
雑豆輸入基金協会 1995. 輸入豆類図鑑 .